1、パンタグラフ

流行のアンテナとはいうけれど、パンタグラフとはいわない。なぜだろうと小さい頃から疑問を持っていた。俺は流行が好きだった。中学生の頃も高校生の頃も流行の雑誌を買って流行の格好をしていた。俺は流行のアンテナを貼っていたわけじゃない。流行をキャッチしていたわけじゃない。常にパンタグラフを使って流行を集積していた。

そうして出来上がった当時の俺は、可もなく不可もなしって感じの普通の男だった。最先端に行きたかったのに、追いかけて集積していたら最先端の二番手になっていた。だれかの真似をしているうちは絶対に一番にはなれない。それがわかったのは社会に出てからだったように思う。

社会にいるといろんな人がいて俺が必死に集めていたことを何も知らない人もいた。思わず「え?同じ時代に日本にいたの?」と聞いてしまったくらいに。でもそいつはいぶかしげな表情でせせら笑った。そして言った、「流行なんてごく狭義でのことだと思うけど。俺の中の最先端って常にゲームだったし。4ビットが8ビットになってってそういう流行を追いかけていたんだもん」。俺もゲームはよくやっていた。でもビット数の変化に流行を感じたりしたことはなかった気がする。そうそれくらいに、俺にとってはどうでもいいことだった。つまり、人によって絶対的なことは変わってくるということがわかったんだ。

流行のアンテナという比喩が正しいことに気づいた。集めたところで何も楽しくない、それはコレクターでしかない。でもアンテナを貼って自分の好きなものを見つけていくことは自分にとって何がしたいかを見つけることになるんだと思う。

俺は一応公務員に落ち着いたけれど、2年の公務員生活の中で流行のパンタグラフを下ろして流行のアンテナをはって、本当は何がしたいのかを見つけてしまったから、公務員を止めることになってしまった。笑われるかもしれないけれど、世界的な有名人になりたいってわかったんだ。クリエイターなのか表現者になりたいのかは正直なところまだ間に合ってる。でも逃げ道を経つために公務員をやめていろんなことに挑戦している。こうやって文章を書くこともある種の営業。

俺の若い経験から言えることはひとつ。流行はパンタグラフで集めるんじゃなくて、自分の心地よさを基準としたアンテナを張った方が人生合理的に進めるよってこと。



LAY-RAY"DRAGON"

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